メラノサイト含有自家培養表皮

メラノサイト含有自家培養表皮とは

メラノサイト含有自家培養表皮とは、患者さん自身の皮膚組織を採取し、分離した細胞をメラノサイトが保持されるように培養した、患者さん自身に使用する表皮細胞シートです。

色素再生による白斑の治癒

メラノサイト含有自家培養表皮は、非外科的治療が無効又は適応とならない白斑の患部に対して、表皮層を薄く削った後に移植します。本品の移植によりメラノサイトが供給され、色素を再生することを目的としています。
白斑は、皮膚に存在するメラノサイトと呼ばれる色素細胞が欠失又は減少するなど、皮膚の色が白く抜ける疾患です。本品の対象は、後天的にメラノサイトが破壊されて発症する白斑のうち12ヶ月程度症状が固定しているものや、先天的な遺伝子異常により発症するまだら症など、外用薬や内服、光線療法といった非外科的治療が無効又は適応とならない白斑です。尋常性白斑の患者数は国内で約15万人とされています。また、まだら症は2万~10万人に1人の発生率とされています。

低侵襲 & 生活の質(QOL)向上

メラノサイト含有自家培養表皮の移植は既存の外科的治療に比べ、少ない面積の皮膚組織を用いて製造するため患者さんへの侵襲が少なく、かつ一度に広範囲の治療を行うことが可能となります。また、本治療法で色素再生することにより、患者さんの整容面での心理的重圧の軽減と生活の質(QOL)の向上も期待されます。

メラノサイト含有
ヒト(自己)表皮由来細胞シート

表皮とは

ヒトの皮膚は、表面から表皮、真皮及び皮下組織の順番で層を形成しています(図1)。表皮を構成する細胞の多くが表皮細胞であり、表皮と真皮を隔てる表皮基底膜上の基底層にて分裂し、成熟するに伴い上方の層へ移行し、表皮表面で脱落します。この脱落するまでの時間は約45日と言われています1)。また、表皮を構成する細胞の中にメラノサイト(色素細胞)が存在します。

  1. 1) 伊藤雅章:第2章 皮膚の構造と機能.標準皮膚科学,第7版(荒田次郎監修,西川武二,瀧川雅浩,富田靖編集)医学書院,東京,pp.4-23(2004)

図1:ヒトの皮膚の構造
H.Green: SCIENTIFIC AMERICAN (Nov, 1991)

開発の経緯

1975(昭和50)年、米国ハーバード大学医学部のHoward Green教授らは、ヒトの正常表皮細胞の培養方法を確立しました。彼らはヒト表皮細胞を培養する際に、特殊な細胞(3T3-J2細胞)を使うことで、きわめて良好な培養環境を作り出したのです。この方法によると、ヒトの表皮細胞が十分に増殖し、皮膚類似の膜状構造を呈し、さらに、この膜状に培養された培養表皮が臨床応用され、種々の皮膚欠損症例に有用であることが明らかになってきました。米国Howard Green教授のもとにいたイタリア モデナ大学のMichele De Luca博士及び同大学のGraziella Pellegrini博士らは、1990年代から白斑患者さんに対し自家培養表皮を臨床応用しています。
J-TECは、米国Howard Green教授から特殊な細胞である3T3-J2細胞の譲渡を受け、自社で自家培養表皮ジェイス®を実用化し、品質の高い培養表皮を作製する技術と経験を蓄積してきました。この技術と経験を生かすとともに、Michele De Luca博士らから技術導入を受け、白斑治療を目的とするメラノサイト含有自家培養表皮を開発しました。

図:メラノサイト含有自家培養表皮の移植フロー

実用化について

メラノサイト含有自家培養表皮は、2023年3月、白斑の治療を目的とした再生医療等製品として、国から承認されました。

日本における再生医療は、2014年11月に「医薬品医療機器等法」ならびに「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」が施行されたことをきっかけとして、製品開発、臨床応用がスピードアップしています。

開発者インタビュー

Howard Green, M.D.

再生医療における表皮幹細胞生物学の世界的権威で、Green型培養表皮の開発者。1970年代にマウスの線維芽細胞と共に培養して表皮細胞シートを作製する手法を開発した。
故 ハーバード大学医学部名誉教授、アメリカ
(Howard Green教授は、2015年10月31日に逝去されました。)


私が培養表皮作製の手法を開発したのは1970年代でした。1984年には、重症熱傷の幼児2人に対してわずかに残った皮膚から5千〜7千cm2の培養表皮を作製・移植して成功し、世界的に注目されました。あれから20年以上経ち、この技術が日本の再生医療の発展においても重要な役割を果たすことになりました。
J-TECのことは以前から潜在能力の高い企業であると認識しており、本社施設を訪問してその将来性を確信しました。日本のみならず、世界中における細胞治療/再生医療等の分野で力強い牽引役になると信じています。

聖マリアンナ医科大学 名誉教授 
熊谷 憲夫 先生 Norio Kumagai, M.D., Ph.D.

培養表皮を用いた臨床治療の世界的権威。専門は形成外科、再生医療。
聖マリアンナ医科大学 名誉教授、日本


私は、1980年代から米国ハーバード大学医学部のHoward Green教授が開発した自家培養表皮の研究を行っており、1985年に日本で初めてのGreen型自家培養表皮を用いた重症熱傷の治療を報告しました。これまでの四半世紀で、熱傷をはじめ、瘢痕や白斑、母斑など600例近い症例に自家および同種培養表皮による治療を臨床現場で実施してきました。
自家培養表皮の特長として、小さな皮膚組織から大量に培養できること、また患者自身の細胞を培養し、本人に移植することから拒絶反応のリスクが極めて低いことが挙げられます。一方、患者自身の細胞を培養するため、細胞の増殖能力には個体差があります。その個体差を補うために、Green型自家培養表皮では、3T3-J2細胞をフィーダーとして細胞を増殖させる優れた方法を用います。
わが国において、再生医療製品を実際に使用した経験のある医師の数は、極めて限られています。J-TECには、細胞採取、細胞移植術および移植後の患者ケアなどを医師が適切に治療できるよう、医師および医療機関への情報提供、教育、啓蒙活動を積極的に進めるなど、再生医療を普及させるための仕組みを構築していくことを期待しています。

Michele De Luca, M.D.

再生医療における表皮幹細胞生物学の世界的権威。重症熱傷の治療のために欧州で初めて培養表皮幹細胞の移植を行った。
Modena and Reggio Emilia大学教授、イタリア


J-TECの自家培養表皮および自家培養角膜上皮の品質向上のための支援を行っています。
幹細胞を扱う新しい技術開発により再生医療の将来性は有望です。今後、再生医療はさらに発展し、将来は医療の主要な選択肢となるでしょう。完全にとは言えませんが、臓器移植に取って代わるものとなるに違いありません。再生医療に関わるJ-TECのようなバイオテクノロジー企業は非常に大きな可能性を秘めています。J-TECの優秀なスタッフは、これまでの幹細胞やメラノサイトを保持する培養表皮の研究開発を通して、豊富な経験を重ねてきました。彼らは再生医療の産業化においても必ず成功すると私は確信しています。現在および将来にわたってJ-TECは再生医療分野で重要な役割を担っていくことになるでしょう。