コラム・トピックス

2021年11月01日【再生医療★インサイド】

ずっと再生医療をやってきて思うこと

再生医療★インサイド 畠 賢一郎
 

ずっと再生医療をやってきて思うことがあります。
医療としてはこれを必要とする患者さんはたくさんいます。だけど、これが普及するにはとてもたくさんの超えるべきハードルがあります。誰に話しをしても、みなさんその意義を認めてくれます。研究開発を進め、製造販売の承認をとり、実際にこれを培養して製造しています。先生方に使い方をご説明し、実際に販売しています。先生方から使用経験を伺い、またさらに良い使い方がないか模索しています。面白くもあり、大変でもあり、やるには時間と根気が必要で、最近のテクノロジーの進歩に比べてなかなか進まない奇妙な領域であると、改めて感じます。
再生医療は、あまりにも複合的です。医療技術でもあり、細胞という生き物を扱う高度なバイオテクノロジーの結集という製品でもあります。くすりや医療機器に近いためにしっかりとした規制対応が必要です。多くの複雑な原料に加え、製造には特別な機械や技術が必要です。そのため、製造コストが高騰します。患者さんご自身の細胞であれば、まさに究極のテーラーメイド医療です。いっそうコストがかかるとともに、絶対に失敗できないという製造へのプレッシャーは半端ではありません。
1993年、Tissue Engineering(ティッシュエンジニアリング) を定義したLanger先生とVacanti先生は、この領域を生物学と工学の学際的領域と呼びました。そればかりではありません。医療と産業、規制制度、本当に様々なものの学際的領域であると痛感します。
この圧倒的に複雑な領域を誰がどのように進めていくのでしょう。たくさんの方々の力を借りて、この複雑で難しい領域を現実のものにしなくてはなりません。私たちは、少しだけ多くの経験をしてきました。これから、この場を借りて色々なことをみなさんにお話しし、そしてみなさんと一緒に再生医療の世界を創っていければと思います。

ずっと再生医療をやってきて思うこと。
製品を作ることではなく、この再生医療の文化を創るため、関係するすべての方々と対話しながら、これをまとめる「誰か」が求められるということです。

2021年11月1日

用語解説

1 Tissue Engineering(ティッシュエンジニアリング)
ティッシュエンジニアリングを実現するためには、生きた「細胞」、人工的に作られた「材料・素材」、細胞や生体に影響をもたらす種々の「生理活性物質」の3つの要素が必要であり、これらを一定時間、適切な環境におくことで、生体機能を有した組織・臓器を創出できるという考えに基づいています。