再生医療のおはなし

私たちのからだが持っている能力
再生

もう今はそんな経験をした子供たちは少ないでしょうが、トカゲはいざとなると自分のしっぽを切り捨てて逃げていきます。いとも簡単に自分のからだをおきざりにして逃げていくのです。彼らが自分のからだを「プツリ」と切るのにはとても驚かされます。しかし、もっと驚くのは、彼らのからだにまたしっぽが生えてくるということです。自分のからだの大きさと比べて、けっして小さいとはいえないからだの一部がまた生えてくるのです。このことは生物の世界では「再生」といって、からだがもとどおりになることを意味しています。

あたりまえですが、私たち人間は足を一本失ったって、手を一本なくしたって、決して新しい手足が生えてくることはありません。指だって、耳や鼻だって生えかわることはないのです。トカゲのしっぽのようにはいきません。とても残念なことです。もし、わたしたちのからだの一部がつぎつぎに新しく「再生」してくれれば、それはきっとすばらしいことでしょう。傷ついたり、失ったりしたからだがもとどおりになるのです。交通事故で腕を一本失っても、大やけどでからだ全体の皮膚がだめになってしまっても、サッカーをしていて足をひどく骨折しても、きれいさっぱり治ってしまうのです。しかし、実際には私たちのからだではそんなうまくはいきません。

さすがに、腕や足までは生えかわりませんが、私たちのからだでも「再生」を見ることはできます。たとえば、ころんでひざをすりむいて皮がむけたとき、血がたくさん出ます。かさぶたができたりして治っていき、新しく治ったところは、完全にもとどおりになったように見えます。皮膚がもとどおりに「再生」したのです。

これとは別に、すごく大きな傷をおうと、もとどおりにはならず、大きな傷跡が残ったりします。その場合は「再生」とはいいません。あくまでも「再生」はもとどおりになることだと思ってください。それほど大きな傷ではなくて、なおるまでに長くかからなかった場合には、傷跡が残らず、もとどおりになるのです。これを「再生」というのです。

私たちのからだの一部が「再生」するのはとても限られた状況だけです。しかし、この「再生」は私たちが生きていくためには欠かせません。トカゲほどハデな「再生」ではないですが、われわれ人間にも備わっている、からだの「再生」という能力はとっても大切なものなのです。

これから、みなさんと「再生医療」というテーマについて考えていきたいと思います。それには、私たちのからだに備わっているこの「再生」と呼ばれるすばらしい能力について少し関心を持ってもらいたいのです。