再生医療のおはなし

「ティッシュ・エンジニアリング」
って何?

1993 年に米国の医師と工学者が新しい考え方を提唱しています。それが「Tissue Engineering(ティッシュエンジニアリング)」です。彼らの考えによると、ティッシュエンジニアリングは、「機能を失った臓器や組織の代替品を、生命科学と工学をうまく組み合わせて作り出す考えのこと」を言うのだそうです。「Tissue (ティッシュ)」とは人のからだの「組織」のことを言います。「Engineering(エンジニアリング)」は「工学」または「工業技術」といった意味です。これを組み合わせて「ティッシュエンジニアリング」を「組織工学」と訳している場合もあります。もう少し詳しく、そのティッシュエンジニアリングについて考えてみましょう。

人工臓器とは字のごとく人工的に作り出される臓器のことを言います。それが心臓であれば人工心臓ですし、腎臓であれば人工腎臓です。臓器と呼ばれるほどではないにしろ、皮膚や骨などの組織では、人工皮膚や人工骨として治療に使われるようになってきました。このような人工臓器では、できることは限られているにせよ、多くの方の努力によって徐々に実用化されてきました。 これに対し、ティッシュエンジニアリングとはどのようなものなのでしょう。人工臓器とはどこがちがうのでしょうか。冒頭にご紹介しました米国の医師はジョセフ・ヴァカンティ先生で、小児の消化器外科の医師です。また工学者はロバート・ランガー先生で、材料学を専門とする研究者です。彼ら二人が考案したティッシュエンジニアリングがすごいところは、生きた細胞を使って人工臓器や組織を作り出すという考え方にあります。

前回までのお話で、私たちのからだは60兆個の細胞でできているというお話をしました。また、これら細胞の中には幹細胞といって、自分を増やす能力を持った細胞がいることもお話ししました。そして、実際の私たちのからだは、マトリックスと呼ばれる物質の中に、細胞が入り込んでいる構造をしていることもお話ししました。
そこで両先生は、患者さんの細胞を人工的に増やし、工場で作られたマトリックスとうまく組み合わせることで、からだの組織や臓器を作ることができるのではないかと考えたのです。皮膚や粘膜、骨や軟骨はすべてそれぞれに特徴的な細胞がいます。また、それに応じた材質のマトリックスがあります。もちろん私たちのからだでは、細胞たちがこれらマトリックスを作り出したのですが、ここでは人工的にマトリックスを用意し、うまく細胞と組み合わせてあげることで、失った組織や臓器を取り戻せる可能性があるというのです。これがティッシュエンジニアリングの考え方なのです。