コラム・トピックス

2022年02月16日【再生医療★インサイド】

そもそも細胞培養とは何でしょう

細胞培養
 

これまで再生医療について様々なお話をしてきました。その際、当然のように細胞培養という言葉が出てきます。細胞培養とは、私たちの体の中にある細胞を体の外で増やすという方法であろうとの想像はつくと思います。とはいえ、実際に細胞培養をされた方はほとんどおられないのではないでしょうか。今回は、この細胞培養について、少し考えてみたいと思います。
かつて、ヒトを含む動物の細胞培養は、生物学の研究を進めるための道具でした。ヒトや動物の細胞を体の外で増やし、細胞自体の詳細を観察したり、さまざまな薬剤の効果や反応を見たりしていました。細胞培養には栄養分を豊富に含んだ培養液を用います。これには、ヒトや動物の血液など体の成分を加えることによって、さらに高性能な培養液を作ってきました。細胞が成長するために必要な成分を補っているのです。培養液中の細胞はヒトの体温と同じように37℃に加温してあげることで、細胞が分裂増殖していきます。
細胞培養には大きく分けて二つの種類があります。ひとつは細胞が何かに接着して増えていくタイプで、もうひとつは細胞自体が培養液に浮遊したままで増えていくタイプです。皮膚や骨、軟骨、各種臓器を構成する体のほとんどの細胞は、何かに接着して増えていきます。これに対して血液の細胞は、浮遊した状態で生存するとともに増えてもいきます。細胞培養の世界でも、できる限り体の中の状態を再現しているのですね。  
実は、以前は、私たちの体の細胞を直接培養することは容易ではありませんでした。というのも、この細胞培養という特殊な環境では細胞が生きていけなかったり、生きていけても体の中の機能を維持することができなかったりしたのです。そこで、かつての研究者らは、研究のためのツールとして、できる限り安定に増やすことができる細胞をがん細胞などから人工的に作り出していました。このような細胞は私たちの体の機能を表現しているところもあれば、これとは全く異なるところも持っていました。ただ、大量に増やすことができたので、世界中で同じ研究をするには適していたといえます。
細胞培養技術がより発展したために、ヒトの細胞をそのまま培養することが可能になってきました。私たちが扱っている皮膚はその代表例で、皮膚の機能を持ったまま大量に増やすことができます。これに対し、肝臓の細胞などは体の中ではさかんに増えるものの、培養環境ではほとんど増えません。複雑な機能を持った細胞たちは容易に増やすことができないのでしょうね。
革新的な細胞培養技術がもととなって、患者さんの体の細胞を増やしたり、活性化したりできるようになってきました。バイオテクノロジーと医療の接点、これが再生医療の本質です。これからも、より多くの細胞が、より多くの価値を持ったものとして提供されていくのだろうと思っています。

2022年2月16日