コラム・トピックス

2022年01月05日【再生医療★インサイド】

再生医療技術によってできるようになってきたこと

再生医療★インサイド 畠 賢一郎
 

「治らない疾患が治るようになる」再生医療の殺し文句です。これによって医薬品や医療機器では実現できなかった医療が実現できるという期待が高まります。これまでお話ししてきたように、はじまりは臓器移植につかわれるドナーから得た臓器のようなものを人工的につくれないかという発想です。科学の進歩によって、ヒトの細胞の多くは細胞培養技術によって増やすことが出来るようになってきました。これを用いて生物学の基礎研究はめざましく発展してきました。しかしその一方で、培養できた細胞を何とか医療に使えないか、そんな考えによって再生医療が生まれました。その原型となったのは、実は皮膚を対象とした治療です。
皮膚の再生医療の始まりは、もちろん再生医療という言葉もなかった1975年にさかのぼります。米国ハーバード大学のH.グリーン教授らは、ヒトの皮膚の細胞を培養することに成功しました。さらに興味深いことに、この培養された皮膚の細胞たちは、数層に重なることで膜のようなものになり、大やけどの患者さんに移植できたのです。文字通り患者さんの細胞を使った人工の皮膚です。彼らによると、切手サイズの健康な皮膚があれば、2週間で全身を覆うだけの皮膚ができるとされています。1983年には、体の表面の9割を超える大やけどを負った二人のお子さんを、この方法で助けることが出来ました。これが、当社の自家培養表皮ジェイスのもとになっています。
患者さんご自身の細胞を使った再生医療の基本的なスキームは以下の通りです。患者さんから少しの健康な組織をいただきます。いただいた組織から細胞を取り出し、これを細胞培養技術によって増やします。そして、移植に適した形に整え、あたかも人工臓器や組織のように移植するのです。この方法をつかってさらにたくさんの臓器や組織をつくることができそうですよね。
再生医療への期待を実現するためには、ここでお示しした皮膚につづく次の移植方法をどのようにつくり上げるかにかかっています。わが国ですでに製品となっているのは、膝関節治療に用いる軟骨に加え、心臓の治療に用いる筋肉細胞、脊髄損傷に用いる骨髄由来の細胞、さらに私たちは眼の角膜関連製品をつくってきました。とはいえ、多くの皆さんが期待している、さまざまな臓器の再生医療はいまだ半ばです。再生医療技術によってできるようになってきたことは、決して多くはありません。しかし、未来の医療に向けて着実に歩を進めているのです。

2022年 1月 5日